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当事務所では、司法書士業務のあらゆる分野について、私たちの知識と経験を活かし、皆様のご要望や疑問にお答えします。
相続登記、遺言書作成、民事信託、会社設立、法人登記を始め、幅広い分野に対応していますので、お気軽にご相談ください。

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相続土地国庫帰属制度のポイントと実務

相続土地国庫帰属

「いらない不動産を手放すことができるようになる。」
最近、そう見聞きした方も多いのではないでしょうか。

相続等によって、不要な不動産(負担を強いられることから「負動産」と表現されることもあります。)を取得した場合その管理や費用に苦労することから、これを手放したいというニーズは以前からありました。それを可能にしたのが、令和5年4月27日に施行された「相続土地国庫帰属法」です。

今回はそんな相続土地国庫帰属法のポイントと、私の実務経験における現状を簡単に紹介させていただきます。

国庫帰属制度のこんな疑問はございませんか?
  • どのような制度なのか?
  • 要件が厳しいと聞いているが本当か?
  • 負担金はいくらかかるのか?
  • 期間はどのくらいかかるのか?
  • 実務ではどのような運用がなされているのか?

 島田司法書士事務所は1983年の創業以来、岐阜市を中心に地域のみならず全国からご依頼を賜り、皆様の課題解決に尽力してまいりました。

司法書士に相続土地国庫帰属をおまかせ

 私が記事を書いています。 

副所長 島田宏基

島田宏基


・司法書士(簡裁訴訟代理認定)
・一般社団法人民事信託推進センター会員
・行政書士


 同志社大学法学部在学中に司法書士試験合格、卒業同日に登録いたしました。企業法務や裁判業務を中心に担当しています。法改正により新たな制度が生まれる中、当事務所では積極的にこれらを活用し、依頼者様の課題解決に取り組んでいます。
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目次

制度の概要

 相続土地国庫帰属法は、相続等により土地の所有権を取得した相続人が、不要な土地を国庫に帰属させることを申請できる制度です。ポイントは次の3点です。

利用資格

 国庫帰属の承認申請ができるのは、相続や遺贈土地を取得した相続人に限られます。売買等で土地を購入した人はできません。

対象の不動産

 

まず、対象となる不動産は土地に限られます。建物は、たとえ相続・遺贈により取得したとしても対象となりません。

国庫に帰属させるには、法で定める要件を全て満たしている必要があります。要件を満たさない代表的な土地を例に挙げると次のとおりです。

  • 建物がある土地
  • 担保が設定されている土地
  • 通路、墓地、境内地、水路等として第三者が利用している土地
  • 境界が不明確であったり、争いがある土地
  • 崖がある土地
  • 残留物がある土地

負担金

 申請が承認された場合は、国に負担金を納めなければなりません。これは、国が税金を投じて管理することから、無条件に土地を引き受けることを抑制するためです。

原則は面積に関わらず20万円ですが、面積に応じて金額が決まる場合もあります。

200㎡の土地を例にすると次のとおりです。

  • 宅地  原則20万円(市街地等の場合は793,000円)
  • 農地  原則20万円(優良農地等は450,000円)
  • 山林  221,800円
  • その他 20万円

上記のように、負担金が面積割合による場合だと、大変な負担金が発生します。

ですから、同制度を検討するに当たっては、要件もさることながら、負担金が20万円なのかどうかということも、重要な判断材料になります。

手続きの流れ

 国庫帰属が完了するまでの流れは次のとおりです。

STEP
申請書類の作成

 申請書には数多くの添付書類を必要とし、事前に現地を調査する必要とする場合もあります。先に挙げた土地の要件に合致していることを、写真等を用いて明らかにしなければならず、この添付書類の出来具合によって承認の可否が左右されるといっても過言ではありません。

STEP
書面審査

 申請後は、法務局によって審査が行われます。

まずは、申請書と添付書類に基づいた書面審査が行われます。法務局の帰属担当官は、はじめに様々な機関に対し、申し出のあった土地の引き取り手がいないか通知をします。引き取りの申し出がなかった場合は、具体的な調査に入ります。

私の実務上の経験ですと、書面調査が完了するまでには約5ヶ月ほどかかりました。

STEP
実地調査

書面審査が終了後、帰属担当官及び管理予定庁の担当者により実地調査が行われます。

原則は1日で行われ、対象地までの経路が複雑な場合は同行依頼がなされる場合もあります。実地調査後は管理予定庁の意見申述期間があり、特段問題がなければ全ての調査が終結します。

STEP
負担金の納付

 承認がなされた場合は、その旨と負担金の通知がなされます。

30日以内に負担金を納付することで、土地の所有権が国庫に帰属します。

STEP
国庫帰属

負担金納付後、国に対する所有権移転登記がなされます。

これで対象地が完全に手から離れることとなります。

相続土地国庫帰属制度の流れ
出典 法務省『所有者不明土地の発生を予防する方策』

農地が要件を満たしやすい?

 法務省は、本制度に関して事前調査も行っており、宅地・農地・林地においては農地が最も要件を満たしやすいということが統計上明らかになっています。

また、農地については本制度の他に、農地中間管理機構が一括借上げを行う所謂「農地バンク」制度の活用も考えられます。こちらについては、税金の優遇措置を受けることもできます。

複数の選択肢があるという点で、農地が最も解決しやすい土地であると考えられます。

誰に頼めばよい?

弁護士・司法書士・行政書士のみ!

この制度を依頼できる専門家は法令により限られており、弁護士・司法書士・行政書士の三者しか同制度に関する業務はできません。


土地の所在や筆界については土地家屋調査士という国家資格者がいますが、書類作成業務に関する根拠法がないことを理由として上記の専門家には含まれていません。しかし、土地の筆界について高度な専門知識を有していますので、境界に疑問がある場合などには、前提として相談すると良いと思います。

また、所有権を手放すという重要な手続きで有ることを鑑み、上記の専門家であっても申請手続きすべてを代理することはできず、あくまでも書類作成に関する業務に限ることとされています。

1 承認申請手続を行う者について

  • 国庫帰属制度における承認申請手続は、法定代理人(親権者、成年後見人等)による場合を除き、申請者が任意に選んだ第三者に申請手続の全てを依頼する手続の代理は認められません
  • そのため、法定代理人による場合を除いては、申請手続は申請者本人が行う必要があり、申請書には申請者本人の記名、押印が必要となります。
  • また、承認申請に対する法務大臣の通知(承認、不承認等)は、申請者本人に対して行われます。

2 申請書等の作成に関する専門家の活用について

  • もっとも、申請手続に関する一切のことを申請者本人が行わなければならないわけではありません。
  • 申請者ご自身で申請書や添付書類(以下「申請書等」という。)を作成することが難しい場合には、申請書等の作成を代行してもらうことができます。
  • その場合、業務として申請書等の作成の代行をすることができるのは、専門の資格者である弁護士、司法書士及び行政書士に限られますので御注意ください。

※ なお、申請を検討している土地の所在や境界に不明瞭な点がある場合など、申請に先立って、土地の筆界に関する専門的知見を有する土地家屋調査士に相談することができます。

法務省『相続土地国庫帰属制度における専門家の活用等について』 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00491.html

そのなかでもおすすめは?

上記の三者が法律上業務ができるとしても、実務に精通しているわけではありません。新たな制度で、かなりの勉強も必要ですから、同制度の実務経験がない資格者が大半だと思います。

司法書士の私の個人的な見解ですが、依頼するのであれば、司法書士または行政書士資格を有している土地家屋調査士がいいと思います。

司法書士と土地家屋調査士は、いずれも不動産登記に関する業務を専門としていることから、同制度に関してもスムーズに業務遂行できると思います。法務局にも日々出入りしていますので、帰属担当官との意思疎通も図りやすいです。

なお、当事務所においても相続土地国庫帰属制度の業務実績がございます。お気軽にご相談ください。

司法書士に相続土地国庫帰属をおまかせ

実務経験上の気づき

当事務所においては、制度開始後まもなくから業務を行っておりましたので、実務上の運用について気づいた点をいくつか紹介します。

申請前に要件すべてを確認しなければならない

法律の建前では、申請後に法務局が要件(却下要件・不承認要件の2種類があります。)をチェックすることになっていますが、実務上は申請前に資格者と帰属担当官がすべての要件を満たしているのか確認します。その上でないと申請は事実上できません。

負担金の事前判断

負担金の事前判断は重要

依頼者からすると、負担金がいくらになるのかということは最も気になる点です。

農地を例にしましょう。

例えば農地の場合、原則は面積に関係なく20万円ですが、3つの要件のうちいずれかに該当してしまう場合は面積割合による算定方法となり、場合によっては簡単に100万円以上の話になってしまします。

相続土地国庫帰属制度の負担金
出典 法務省『相続土地国庫帰属制度の負担金』 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html

そこで、事前に負担金が面積割合になってしまう要件を満たしていないか調査をするわけです。

農地の負担金は想定しやすい

上記の図から明らかなように、農地の負担金が面積割合になる要件は3つもあり、調査することが難しいように思われます。

そんなときに便利なのがeMAFF農地ナビ」です。これは、全国の市町村及び農業委員会が有している農地台帳および農地に関する地図について、農地法に基づき農地情報をインターネット上で公表しているサイトです。

このサイトで対象土地を検索すれば、地域区分、都市計画法区分、農振法区分等、多数の情報にアクセスできます。上記の図でいうと、アとイの要件を調査できたことになるので、あとはウを調べるのみとなります。

eMAFF農地ナビ
eMAFF農地ナビ

ただし、全ての農地で情報が網羅されているわけではなく、なかには「調査中」と記載されているものもあります。そのような場合には、農業委員会に問い合わせをしたり、農地台帳を取得したりするのがいいと思います。

想定されていない問題が発生する

一応、法務省は通達により、各要件に該当する事例をいくつかあげていますが、想定していないものもあります。

その場合は、資格者が帰属担当官と事前協議して、要件に該当しないかどうかを検討しなければなりません。帰属担当官でも判断がつかない場合は法務省民事局の判断を仰ぐことになるので、相当の時間がかかります。後から気づいては遅いので、申請前の段階において確認しておくことが資格者としての責務だと思います。

私の担当しました事案を一つあげますと、対象土地が河川法における河川区域でした
河川区域においては、法律により土地使用に規制がされている(河川法第26条ので、管理予定庁が国庫帰属後に行う管理方法によっては、この規制が不承認要件に該当する懸念がありました
事前に帰属担当官に説明したところ、やはり判断がつかなかったため法務省民事局に意見を仰ぐこととなり、不承認要件には該当しないとの回答を得ました。
このような事案は、今後いくつも発生しうると思います。

法務局は積極的な姿勢である

「いらない土地を、国は欲しがらない。」という意見は昔からあります。

個人的な見解ですが、この話は的を得ていると思います。実務において、国有地かどうかの確認を財務省(出先機関として財務局)に依頼する場面がありますが、かなり消極的な印象があります。あまり納得の行かない理論で拒絶されることもありました。

しかし、同制度においては異なります。法務局は同制度を新たな権能として考えているようで、想像以上に積極的な姿勢でいます。制度開始前から、資格者への広報活動も活発的に行っておりましたので、肌感覚としてやる気を感じていました。

そもそも、なぜ同制度の承認主体に法務省が選ばれたかというと「管理庁ではない最も離れた機関だから」という噂があります。
やはり管理庁(財務省や農林水産省)は利用価値のない土地を欲しがらないので、利害関係がなく公正な判断ができる法務省が選ばれたのでしょう。管理庁から理不尽な拒絶がされても、法務省は要件を満たしていると判断すれば承認するものと期待しています。

帰属担当官との意思疎通が最重要

この制度の特殊性として、帰属担当官との綿密な事前協議が成否に関わりうるということです。

同制度は運用実績が十分にないため、帰属担当官・資格者双方がある意味手探り状態にあります。加えて、要件の充足性については細かな判断が必要になるので、綿密な事前協議は必須と言えます。

資格者としては、奢ることなく帰属担当官と議論を重ね、万全の体制で挑むべきだと思います。

結びに代えて

 上記で紹介させていただきました通り、相続土地国庫帰属法は満たすべき要件が数多くあり、巷で言われているほど容易な手続きではありません。加えて、始まったばかりの新制度であることから、実務上の運用も模索段階といえます。

 しかし、所有者不明土地問題を解消する制度として、法務省は施行以前から専門家に周知活動を徹底して行っており、その力の入れ具合を感じます。国としては積極推進の姿勢であることは間違いありません。

 相続等で取得した土地の管理でお困りの方は、本制度の利用をご検討してはいかがでしょうか。

ご拝読ありがとうございました。

この記事を書いた人

 私は、学生時代をコロナ禍と共に過ごし、通学ができなかった数年間は司法書士事務所で仕事をしながら学問に勤しみました。実務経験をもって司法書士登録できたことが、私のアドバンテージとなりました。

 現在は主に、商業・法人登記を初めとした企業法務関係と裁判業務を担当しております。昨今の法改正により、新たな制度が多数可能となっていますが、当事務所ではこれらを積極的に利用して依頼者様の課題解決に尽力します。これからも勉強を続け、あらゆる分野において最先端の知識と実務経験を有することが出来るよう、おごらず謙虚に努めて参ります。

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